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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)2321号 判決 1975年8月19日

控訴人 有尾敏春

右訴訟代理人弁護士 大隅乙郎

被控訴人 破産者株式会社日本建設協会破産管財人 重富義男

右訴訟代理人弁護士 大江忠

同 丸山實

主文

原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。

控訴人が破産者株式会社日本建設協会に対し、退職金債権金一三一万六〇四〇円の優先破産債権を有することを確定する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

≪証拠関係省略≫

理由

一、株式会社日本建設協会(以下単に会社と表示する)が昭和四六年一月二〇日東京地方裁判所昭和四五年(フ)第二四七号破産事件において、同裁判所により破産宣告を受け、被控訴人が破産管財人に選任されたことは職務上顕著の事実である。そして控訴人が昭和四六年七月二一日、同裁判所に対し、金一三一万六〇四〇円の退職金債権(優先債権)の届出をしたこと、被控訴人が昭和四七年六月一二日、同年一一月一二日の各債権調査期日に各届出債権につき異議をのべたことは、当事者間に争いがない。

二、そこで控訴人は果してその主張のような債権を有するか否かについて判断する。

(一)  控訴人が昭和三六年六月、会社に入社し、昭和四五年三月三一日に退社し、従って右在職年数が八年九ヶ月余となること、昭和三九年頃より退職時までの間は、控訴人は会社の取締役となっていたことは、当事者間に争いがない。

(二)  被控訴人は、控訴人が取締役に就任した時、会社を一たん退職して、その時まで保有していた会社の使用人としての身分を失なったと主張する。ところで、取締役の地位と使用人の地位とは、法律上両立しえないものではないから、会社の使用人であった控訴人が取締役に就任したからといって、直ちに同人が使用人の身分を失なったものと解することはできない。そして、本件においては、控訴人が取締役に就任する直前に、会社を退職したとの事実については、これを肯認するに足りる証拠はない。かえって、≪証拠省略≫によれば、控訴人は、取締役に就任した後も営業部長を兼ねており、実際にも使用人としての職務も行ない、かつ、使用人としての月々の俸給を受けており、退職時である昭和四五年三月当時における同人の基本給は、月額金一〇万九六七〇円であったことを認めることができる。よってこの点に関する被控訴人の主張は採用することができない。

(三)  次に被控訴人は、会社の退職金に関する規定によれば、退職金が支給されるためには、「円満退職する時」に限られるところ、本件の控訴人の退職は、円満な退職ではなかったから、控訴人には退職金請求権がないと主張するので、この点について判断する。

≪証拠省略≫によれば、会社の社員給与規定の第一〇条には、社員が「円満退職する時に」退職金を給する旨定められていることが明らかである。しかし、さらに甲第二号証の二(就業規則)をもあわせて判断するならば、右にいう「円満退職」とは、懲戒処分による免職を除くその余の退職をすべて含むものと解するのが相当である。そして、本件退職が懲戒処分による免職でないことは、弁論の全趣旨より明らかなところである。よって被控訴人のこの点に関する主張もまた採用することができない。

(四)  次に、≪証拠省略≫によれば、会社の退職金規定によれば、八年以上在職した使用人に対しては、退職時の基本給の一二ヶ月分を退職金として支給することが定められており、右規定は、昭和四三年一月一日より実施されたものであるが、同日以前より在職して同日以降に退職した者については、右規定の実施以前の在職期間もそのまま算入されていたことを認めることができる。従って控訴人の退職金額は、退職時の基本給(月額)金一〇万九六七〇円の一二倍即ち金一三一万六〇四〇円となることは、計数上明らかである。

三、以上のとおり、控訴人は、会社に対し、金一三一万六〇四〇円の退職金請求権を有し、右は商法二九五条、破産法三九条の各規定により、いわゆる優先破産債権にあたるものであるから、被控訴人に対してこれが確定を求める控訴人の本訴請求は理由があるので、これを認容すべきである。しかるに原判決は、これと異なるので取消すこととし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 室伏壮一郎 裁判官 小木曽競 深田源次)

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